静岡地方裁判所 平成6年(行ウ)2号 判決 1998年3月12日
東京都千代田区一番町二三番地二
原告
共立酒販株式会社
右代表者代表取締役
古市滝之助
右訴訟代理人弁護士
亀田信男
同
久保田理子
同
白井孝一
同
清水光康
同
中村光央
同
杉山繁二郎
同
増本雅敏
静岡市追手町一〇番地八八
被告
静岡税務署長 鈴木幸治
右指定代理人
加藤裕
同
井上良太
同
醍醐保江
同
小木一一
同
神田増男
同
佐藤信吉
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、平成四年七月二日付けで原告に対してなした酒類販売業免許の拒否処分は、これを取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件処分
原告は、酒類販売などを目的とする株式会社であるが、平成三年九月三〇日、被告に対し、酒税法九条に基づき酒類の販売業をする場所(以下「販売場」という。)を静岡与一 三丁目三三四番二一九(以下「本件申請地」という。)とする酒類販売業の免許申請(以下「本件申請地」という。)をしたところ、被告は、平成四年七月二日、原告に対し、酒税法一〇条一一号に該当するとの理由で酒類販売業に免許を付与しないとの拒否処分(以下「本件処分」という。)をした。
そこで、原告は、同年八月二九日、名古屋国税局長に対し、右の処分を不服として審査請求をしたところ、同国税局長は、平成六年三月二四日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決をした。
2 本件処分の違法性
酒類販売をしようとするものに対する免許制度(以下「酒販免許制度」という。)を定めた酒税法九条、同法一〇条一一号は、職業の選択の自由を定める憲法二二条一項に違反するものであり、また、本件申請地に原告が出店しても、酒類の需給の均衡を崩すことはなく、本件申請は、同法一〇条一一号に該当しないところ、被告は、酒類の安売りの販売を敢行する原告の参入を不当に制限するため、酒販免許制度をし意的に運用し、原告を差別的に取扱い、本件処分を行ったもので、明らかに裁量権を逸脱するものである。
よって、原告は、本件処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1の事実は認め、同2は争う。
三 抗弁
1 酒販免許制度の合憲性について
(一) 酒販免許制度の合憲性審査基準
憲法は、租税の納税義務者、課税基準、賦課徴収の方法について、すべて法律又は法律の定める条件によることのみを定め、その具体的内容を法律の定めるところに委ねており、また、租税は、国家の財政需要を充足するのみならず、所得の再配分、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能を有しているから、国民の租税負担を定めるについては国政全般からの総合的な政策判断を必要とし、他方で、課税要件の定立等については極めて専門的技術的な判断を必要とするから、租税法の定立は、国家財政、社会経済、国民所得及び国民生活等の実態に着いて正確な資料を収集できる立法府の政策的、技術的判断に委ねるほかないというべきである。したがって、酒販免許制度のような租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の自由に対する規制は、立法府の裁量に委ねられているというべきであり、その必要性と合理性についての立法府の判断が右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱する著しく不合理なものでない限り、憲法二二条一項に違反するということはできないというべきである。
(二) 酒販免許制度の合憲性
(1) 酒販免許制度の趣旨及び必要性等
酒税法は、酒類に酒税を課することを目的に制定された法であり、酒類の消費を担税力の現れであると認め、酒類について、酒類製造業者を納税義務者とするいわゆる間接消費税である酒税を課すとともに、その賦課徴収については、製品としての酒の量を課税基準とするいわゆる移出課税方式をとり、酒類販売業者を介しての代金回収を通じて、その税負担を最終的な担税者である消費者に転嫁する仕組みとなっている。したがって、酒税収入を確保する上で酒類販売業者が重要な役割を果たすことになるが、このような立場にある酒類販売業者が乱立し、過当競争が生じて、その経営の不安定、倒産などにより、納税業者である酒類製造業者の販売代金の回収に多大な困難を来たせば、滞納率が増大し、酒税の安定かつ効率的な確保は困難となる。
そこで、同法は、消費者への酒税負担の円滑な転嫁を阻害するおそれのある酒類販売業者を酒類の流通過程から排除するとともに、酒類販売業者の乱立を防止し、適正な需給の均衡の下に酒税納税義務者とされる酒類製造業者に酒類の販売代金の回収を確実にさせて酒税保全を図るため、酒販免許制度を設けている。
具体的には、酒類の販売をしようとする者に対し、販売場ごとに所轄の税務署長の免許を受ける義務を課し(同法九条一項)、「人」については酒類販売の経営安定の見地から、「場所」については検査取締りと酒類の需給均衡上の見地からそれぞれ要件(消極的免許要件)を定め、申請内容が免許の趣旨に沿っている場合に限り、「人」と「場所」を特定して免許を付与することとしている(同法一〇条)
(2) 国税における酒税の位置
酒税は、沿革的に国税全体に占める割合が高く、わが国の重要な財源をなし、比較的安定した収入をもたらしており、販売代金に占める割合も効率であるから、これを確実に徴収する必要性が高く、本件処分が行われた平成四年当時も、酒税国税収入全体に占める割合は三・六パーセントに低下していたものの、その額は、一兆九六〇九億六一〇〇万円であり、税目別では国税収入の中で五番目であって、その重要性は依然として高く、移出量の多いビール(大瓶)においては酒税が販売代金の約四〇パーセントを占めるなど酒税の税率はなお非常に高率であった。
(3) 結論
以上のとおり、酒販免許制度は、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという重要な公共の利益のために採られた必要かつ合理的な措置であり、そもそも、右制度によって規制されるのは、致酔性を有する嗜好品である酒類の販売の自由であり、酒類は、その販売が無秩序に放任されてよいとはいえず、その観点からも何らかの規制があるのは止むを得ない面がある。そして、酒販免許制度は、本件処分当時においても、その必要性と合理性が認められるところであって、この制度を存置している立法府の判断には、合理性があり、右判断が著しく不合理であって、その委ねられた政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱しているとはいえず、右制度は、憲法二二条一項に違反するものではない。
2 酒販免許基準(酒税法一〇条一一号)の合憲性について
酒税法一〇条一一号は、「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため、・・・酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合」には、税務署長は、免許を与えないことができる旨規定している。右規定は、一定地域内における酒類の需要量が、当該地域に存在する販売場の数に関わりなくほぼ一定していることから、当該地域における酒類製造業者の乱立による過当競争、経営不安定、その結果として、関連製造業者の経営の不安定による酒税確保の困難が生じるのを防止するため、酒類の適切な需給関係を維持しもって酒税収入の安定的な確保を図ろうとしたものであり、酒販免許制度の目的に直結する制度としての合理性を有するから、憲法二二条一項に違反するものではない。
3 本件処分の適法性について
(一) 酒税法一〇条一一号の免許付与基準
(1) 国税庁長官通達
酒販免許基準に関する具体的な判断の基礎となる内部的な基準として、昭和五三年六月一七日付間酒一―二五国税庁長官通達及び平成元年六月一〇日付間酒三―二九五国税庁長官通達「酒類の酒類販売業免許等の取扱いについて」の別冊「酒類販売業免許等取扱要領」並びに同日付間酒三―二九六国税庁長官通達「一般酒類小売業免許の年度内一般免許枠の確定基準について」(以下、併せて「本件通達」という。)がある。
右通達によれば、酒販免許制度にいう需給の均衡を維持するための要件(以下「需給要件」という。)の認定判断を行うための基準(以下「認定基準」という。)と免許申請に対する審査の手順は、概ね次のとおりである。
イ 小売販売地域の設定及び格付け
税務署長は、原則として、その管轄区域内の各市区町村を一単位として小売販売地域を設け、その規模や可住地人口密度(市町村の総人口を当該市町村の総面積から林野面積及び湖沼面積を除いた可住地面積で除して得られる人口密度をいう。)により、これを次の三つに格付けし区分する。
(A地区) 東京都の特別区、人口三〇万以上の市、可住地人口密度三〇〇〇人/平方キロメートル以上の市町村、又はこれらの地域を含む小売販売地域
(B地区) A地区以外の市、可住地人口密度一二〇〇人/平方キロメートル以上三〇〇〇人/平方キロメートル未満の町村、又はこれらの地域を含む小売販売地域
(C地区) A地区及びB地区いずれにも該当しない小売販売地域
ロ 基準人口比率の算定
税務署長は、各免許年度(毎年九月一日から翌年八月三一日まで)の開始前において、当該年度開始直前の三月三一日時点の小売販売地域ごとの人口を基準人口(A地域は一五〇〇人、B地域は一〇〇〇人、C地域は七五〇人)で除して、基準人口比率を算定する。
ハ 免許枠の確定
各小売販売地域の年度内一般免許枠は、当該税務署ごとの基準値を五で除して得られる数値に相当する件数(小数点以下は切り上げる。)に合計値に占める計算値の割合を乗じて得られる件数とする。
右「計算値」とは、小売販売地域の基準人口比率から、当該小売販売地域において免許年度開始直前の八月三一日時点で既に付与している一般酒類小売業免許場数を控除して得られる数値をいい、右「合計値」とは、当該免許年度の合計値に平成元年免許年度以降税務署内において付与した一般酒類小売業免許の件数を加えた数値をいう。
ニ 審査手順
税務署長は、当該免許年度の免許枠が設けられた小売販売地域について、原則として、免許の申請を受理した順に(ただし、九月一日から同月三〇日までの間に受理される申請は同順位とし、抽選により審査順位を決定する。)申請の人的要件及び場所的要件を審査し、免許のための全ての要件を満たす者に順次、年度内一般免許枠の範囲内で免許を付与する。
なお、税務署長は、新開地、山間へき地、団地又は高層建築物集積地区等の特定の地区又は場所において、特に一般酒類小売業免許を付与する必要があると認めるときには、人口基準に基づく年度内一般免許枠にかかわらず、その地区又は場所を指定して、一般酒類小売業免許を付与することができる(以下「年度内特例免許枠」という。)
(2) 本件通達における認定基準の合理性
一定地域における酒類消費の実情は、当該地域に居住する人口と最も密接な因果関係をもっているものと認められ、かつ、一定地域に居住する人口は毎年公表されており、その数が客観的に明らかであるから、人口を基準として免許を付与すれば、税務署長の判断の透明性を確保することができる。これらの観点から酒類の需給の均衡を維持する方法として一定地域の人口を基準にその地域内で許可すべき一般酒類小売業者の総数を定め、その枠内で新たに免許を付与する、いわゆる人口基準方式(以下「人口基準」という。)はより合理性のある基準である。
本件通達に定める前記基準人口は、昭和六二年度の免許付与の実情についての全国的な実態調査に基づくものであり、右調査によれば、人口一人当たりの免許付与比率の平均は、A地域が一五六七人に一場、B地域が一一二六人に一場、C地域が八七八人に一場の割合であった。また、同年度の酒類の消費金額は五兆三〇二六億円程度と推計され、これを当時の日本の人口(約一億二一〇六万人)で除せば、人口一人当たりの消費金額が算出され、これは、四万三八〇一円となる。そこで、A、B、C各地域の酒類小売業者の平均酒類売上金額に基づき、現状の酒類売上金額を維持するために必要な人口を推算すると、A地域が一五〇六人、B地域が一〇五〇人、C地域が六一二人となる。前記基準人口は、これらの事情を参酌して設定されたものであり、酒類の需給を適切に維持し、酒税収入の安定的な確保を図るという酒販免許制度の目的に合致し、合理性があることは明らかである。
(二) 本件処分と酒類の需給の均衡
(1) 本件申請地にかかる小売販売地域である静岡市は、人口が三〇万人以上あり、小売販売地域の格付けがA地域に該当し、その基準人口は一五〇〇人となる。同市の平成三年三月三一日当時の人口は四七万〇八三八人であるから、同市の基準人口比率は三一四となるところ、同年八月三一日時点における同市の一般酒類小売業免許場数は既に三二八場あったから、同市の平成三免許年度内一般免許枠はないことになる。
(2) そこで、被告は、本件通達の認定基準に従って、本件免許申請について、当該申請にかかる小売販売地域における酒類の需給の均衡を破り、ひいては、酒税の確保に支障をきたすおそれがあると判断して、本件処分を行ったものである。
四 抗弁に対する認否及び反論
(認否)
1 抗弁1、2は争う。
2 抗弁3(一)(1)の事実は認める。同(2)は争う。
同(二)(1)の事実のうち、平成三年三月三一日当時の静岡市の人口及び同年八月三一日当時の一般酒類小売業免許数は認めその余は争う。(2)は争う。
(反論)
1 酒販免許制度の違憲性について
(一) 酒販免許制度の合憲性審査基準
酒販免許制度は、営業の自由の中の狭義における職業選択の自由、すなわち、開業そのものを直接制約する最も徹底した規制に他ならないから、これに対する合憲性審査基準としては、他のより緩やかな規制によってはその目的を達成できないという場合に限られるという基準(必要最小限度の原則)によるべきであって、第一に規制目的自体が公共の利益に適合する正当性を有すること、第二に規制目的と規制手段との間に合理的な関連性が存在すること、第三に規制によって失われる利益と得られる利益との間に均衡が成立すること、ないし、より制限的でない他に選びうる規制手段がないことが必要であり、被告の主張するような立法府の裁量判断が認められるものではない。
(二) 酒販免許制度の違憲性
(1) 酒販免許制度の趣旨及び必要性等
酒販免許制度の目的は、酒税の保全ではなく、移出課税導入などの増税についての懐柔策と経済の統制化、裏を返せば酒類製造業者もしくは酒類販売業者の既得権の保護にあるから、右制度には、営業の自由を規制する正当な目的はない。
酒税法立法当時、酒類販売業者が乱立したのは、政府の財政緊縮政策によって増加した失業者が酒屋へ転職したという特殊な時代的背景によるものであり、酒類販売業者の倒産率の上昇、それに伴う酒税の滞納率の上昇も、酒類製造業者の大半であった中小の零細清酒醸造業者が当時の経済恐慌の影響を受けたために生じたものである。現在では、右のような状況はなく、経営基盤の強固な大手酒類製造業者によって酒税の九六パーセント以上が酒販店に全く関係なく確実に納税される仕組みになっており、酒販免許制度が、酒税の保全や滞納の防止に役立っているということはできない。
そもそも、酒類は、自由価格であって、酒税を下回る価格で販売することを規制することはできないから、酒販免許制度のみにより消費者への円滑な酒税の転嫁を確保することはできず、この点からも酒販免許制度を採用する合理的な理由はない。
さらに、税務署長は、酒税法上の製造免許制度により、納税者である酒類製造業者に各種義務を課するほか、必要に応じて納税のための担保の提供又はこれに代えて酒類の保存を命じることができ(酒税法三一条)、酒類製造業者が酒税を滞納した場合には、これらから徴収できるから、酒税の保全は万全である。酒税法以外の酒税保全の施策としては「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」(以下「酒団法」という。)があり、同法は、酒類販売業者の不況カルテル(同法四二条)を認める一方、脱税と滞納予防の具体的措置として大蔵大臣の勧告、命令(同法八四条一項、三項)を規定しており、同法が罰則を背景とした極めて強力な規制となっているから、酒税保全のため、この上さらに酒販免許制度を採用する合理的な理由はない。
また、酒税の滞納率は、移出課税となった改正当時から一貫して〇・一パーセントと低い状態を維持しているが、酒税は、製造業者が間接税を納税する第二種物品税であって、元来同税は、滞納率が〇・二パーセントと低いのであるから、酒税の滞納率が低いことをもって、酒販免許制度が酒税の保全に役立っているということはできない。
さらに、小売価格にしめる税金の割合が五六パーセントと高いたばこ税や販売場当たりの年税額が酒税の三倍である揮発油税などの他の間接消費税は、小売販売業者の免許制度を採用していない。
以上の各事情に照らせば、本件処分時において、既に酒販免許制度は、その合理性と必要性とを失っていたというべきである。
(2) 国税における酒税の位置
酒税収入の国税収入に占める割合は、改正当時、(昭和九年ないし昭和一一年度の平均)一七・六パーセントであったものの、平成三年では三・一パーセントに過ぎなくなっており、その税目別の順位をみても昭和五一年から昭和六三年まで第三位だったが、平成三年には所得税、法人税、消費税、石油三税に次ぐ第五位となっている。税率についても、揮発油の小売価格に占める税負担率が三八・四パーセントであるのに対し、酒税の単純平均負担率は二五・五パーセントに過ぎない。
被告は、致酔飲料としての酒類の特性に基づいて酒販免許制度を必要かつ合理的なものである旨理由づけるが、酒類を直接、飲料として提供する料理飲食店に対して何らの規制もせず、対面販売を行わない酒類の自動販売機の存在と利用の実態を放置している以上、右の特性があるからといって酒販免許制度が合理性を帯びるものではない。
2 酒販免許基準(酒税法一〇条一一号)の違憲性について
酒税法一〇条一一号は、既存販売業者の私的利益を擁護するため、新規事業の参入を制限することによって自由な競争を阻止するものであり、その税収に及ぼす効果も明らかでない上、それがなければ税収の確保が困難というわけでもないから、同条において営業の自由を制限する合理的な根拠はない。
3 本件処分の違法性について
(一) 本件通達における認定基準によれば、静岡市(A地域)の基準人口は一五〇〇人であり、本件処分当時の日本の人口約一億二〇〇〇万人を右基準人口で除すと日本全体で約八万場の免許しか付与できないことになるが、これは、酒類の消費量が現在の約二七分の一でしかなかった昭和二一年当時の免許場数八万四七八六場よりも少ないことになるから、右基準人口に合理性があるとはいえない。
また、静岡市の夜間人口は約四七万〇八〇〇人であり、同市の酒類の年間消費量が約三万二五〇〇キロリットルであることからすると、単純計算で同市の一人当たりの年間酒類消費量は約七〇リットルとなり、ほぼ全国平均(約七四・八リットル)の数字となる。そうすると、同市の夜間人口を全国平均の一場あたりの人口(八七五人)で除した五三八が、同市における適正な場数というべきであり、現在の同市における場数が三二八であることからして、同市では約二〇〇場不足していることになる。したがって、原告が同市で新規に出店しても、同市の酒類の需給の均衡を害することはない。
(二) しかも、本件処分当時、本件申請地の半径二〇〇メートル以内には、約一五〇〇から二〇〇〇人以上の人が住み、本件申請地から直線距離にして半径六〇〇メートル以内、道路に沿った距離にすると半径一キロメートル以内には酒販店は存在せず、しかも、本件申請地には昭和五七年まで販売場が存在し、その後三〇〇メートル内に免許を付与された販売場は存在しない。そして、本件申請地の属する小売販売地域は、広いうえ、昼間人口が多く、夜間人口も漸増しているから、原告が出店しても右地域の酒類の需給の均衡を崩すことはない。
また、原告は、被告のほか八件中七件が平成四年七月二日から同月七日までの短い期間に集中して、同じ文面の拒否理由によって免許を拒否されており、このことからすれば、被告が酒販免許制度をし意的に運用したことは明らかである。
さらに、国税庁長官通達の別冊「酒類販売業免許等取扱要領」は、税務署限りで処理する免許申請につき、申請書類を受理した日から起算して最大限二か月内にこれを処理しなければならない旨定めているが(第五章一〇 免許事務の処理機関)、本件処分は、原告の申請受理してから約九か月を経過して発令されたもので、右通達に違反する違法なものである。
第三証拠
本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第一 原告の本件申請に対して、被告が本件処分をしたことについては、いずれも当事者間に争いがない。
第二酒販免許制度の合憲性について
一 酒販免許制度の合憲性審査基準
憲法二二条一項は、「何人も公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業の選択の自由を有する。」と規定し、公共の福祉の制約の下に、狭義における職業選択の自由と職業活動の自由(以下、併せて「職業の自由」という。)を保障しているところ、一般に職業の許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業選択の自由そのものに制約を課するもので職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として重要な公共の利益のための必要かつ合理的な措置であることが必要である。また、憲法三〇条及び八四条は、租税の納税義務者、課税標準、賦課徴収の方法等について、すべて法律又は法律の定める条件によることを必要とするとのみ定め、その具体的な内容は法律の定めるところに委ねている。租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再配分、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しているから、国民の租税負担を定めるについては、財政、経済、社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断が必要とされるばかりでなく、課税要件等を定めるについても極めて専門的技術的な判断が必要とされることは明らかである。したがって、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的な判断を尊重せざるを得ないものというべきである(最高裁昭和六〇年三月二七日大法廷判決・民集三九巻二号二四七頁参照)。
以上のことからすると、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の許可制による規制については、その必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、憲法二二条一項に違反するものということはできない(最高裁平成四年一二月一五日第三小法廷判決・民集四六巻九号二八二九頁参照)
これに対し、原告は、酒販免許制度の定立に立法府の裁量判断は認められない旨主張する。しかし、職業選択の自由のような社会経済活動は公共の利害に影響するところが大きく、社会経済の実態やその変遷に伴ってその規制の態様も複雑にならざるをえず、他方、租税法の定立にあたっては政策的、技術的な判断が必要とされることなどに鑑みると、その規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、課税のための職業の自由に対する規制措置としてどのような定めをするかという判断は、立法府の合理的な裁量判断に委ねられているというべきである。しかも、本件のような規制措置によって制約される活動は、致酔性を有する嗜好品である酒類の販売の自由であることからしても、原告の主張のような厳格な基準によって酒販免許制度の審査をしなければならないということはできない。
二 酒販免許制度の合憲性について
1 酒販免許制度の趣旨
酒税法は、酒類の消費を担税力の表れであると認め、酒類について、いわゆる間接消費税である酒税を課すとともに、いわゆる移出課税方式によって酒類製造業者にその納税義務を課し、酒類販売業者を介しての代金の回収を通じて、その税負担を最終的な担税者である消費者に転嫁するという仕組みをとっている。このような仕組みにおいては、酒類販売業者は、納税義務者である酒類製造業者と最終的な担税者である消費者の中間に位置して、両者の間の税負担の適正かつ円滑な転嫁を仲介する重要な役割を担っているということができる。そこで、酒税法は、酒税の確実な徴収とその税負担の消費者への適正かつ円滑な転嫁を確保する必要から、納税義務者である酒類製造業者だけでなく、酒類販売業者についても免許制を採用したものである。
2 酒販免許制度の必要性と合理性
証拠(甲一三、二八、三七、三八、五七ないし六三、七〇、七一、七六ないし七八、一三三、一三四、乙五の二、乙八)及び弁論の全趣旨によれば、酒販免許制度が採用された昭和一三年当時における酒税収入の国税収入全体に占める割合は、約一三・四パーセントであったが、その後の社会情勢と消費税の導入による課税法体系の変化に伴い、平成三年度には、約三・三パーセントとなり、平成四年度には、約三・六パーセントになったこと、また、近年、許認可事務を通じての行政庁による過度の規制を緩和し、経済活動の自由化を求める世論が高まり見せていること、他方、酒税の収入額は、年々増加し、昭和六三年には、約二兆二〇〇〇億円となり、その後も平成二年度から平成四年度の間約一兆九〇〇〇億円を超え、税目別の収入の多寡においては、国税収入の中で五番目に位置していること、酒類の標準的な小売価格に占める酒税の割合は、別表1のとおりであり、極めて高率であることがそれぞれ認められる。
以上のとおり、酒税は、沿革的に見て国税全体に占める割合が高く、これを確実に徴収する必要性が高い税目であるとともに、酒類の小売価格に占める割合も高率であることからすれば、酒税法を改正し(昭和一三年法律第四八号)、酒税の納税義務者とされた酒類製造業者による、酒類の販売代金の回収を確実にさせ、消費者への酒税の適正かつ円滑な転嫁を実現し、酒税の適性かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のため、酒販免許制度を採用したことには、その必要性と合理性があったというべきである。
もっとも、右でみたとおり、その後の社会状況の変化と租税体系の変遷に伴い酒税の国税全体に占める割合等が相対的に低下し、かつ、規制緩和を求める世論の高まりも認められた本件処分当時において、なお酒販免許制度を存置しておくことの必要性と合理性については議論の余地があることは否定できず、この点についての原告の指摘はその限りで理解できなくはない。しかしながら、前記認定のとおりの酒税収入の額及び酒税の小売価格に占める割合等を併せ考慮すると、本件処分当時において、前記酒税の賦課徴収に関する仕組みがいまだ明らかに合理性を失うに至っているとまではいえないというべきである。
そして、酒販免許制度によって規制される酒類は、前記のとおり、致酔性を有する嗜好品である性質を有しており、その性質からして販売秩序の維持及び過度な消費の抑制等の観点から、生活必需品等の販売の自由とは異なった何らかの規制が行われても止むを得ない性質をそれ自体有するものと解され、酒販免許制度は、このような性質を有する酒類の販売の自由に対する規制に止まっているものである。
3 以上によれば本件処分当時においてなお、酒販免許制度を存置すべきものとした立法府の判断が、その政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱し、著しく不合理であるとまでは断定し難い。
4 原告の主張について
(一) 原告は、酒販免許制度の立法目的は、移出課税方式の導入による実質的な増税に対する酒造業界の反対を懐柔することと統制経済体制の確立にあった(原告は、これらが既得権者の保護を目的としていたという。)旨主張する。
しかし、証拠(甲五二、五三、八二、乙二の二、乙四)及び弁論の全趣旨によれば、酒販免許制度が採用された昭和一三年当時、酒類販売業者が乱立し、日本全国で約二五万人に達し、当時の不況と相まって、売れ行き不振に伴う業者間の販売競争の激化及び乱売競争が生じ、酒類販売業者の倒産、名義変更が年間を通じて全業者の三割にも達し、酒類製造業者においても酒類の売掛代金の回収に困難を来たし、倒産、廃業が相次ぎ、多いときには約一万二〇〇〇人あった酒類製造業者が毎年約二〇〇人の廃業を余儀なくされ、昭和一三年当時には約七〇〇〇人にまで減少し、酒類製造業者による酒税の納税義務の不履行を招来したこと、昭和一三年第七三回帝国議会における酒税法改正案の審議に際し、政府の提案理由として、酒税の保全を期するため、酒類販売業につき免許制度を採用する旨の説明がなされたこと、酒類製造業者が移出課税に反対したのも、酒類の販売代金の回収が不確実なまま同課税が採用されることによる不利益を慮ってのもであることがそれぞれ認められる。
以上によれば、酒販免許制度が採用されたのは、酒税の適性かつ確実な賦課徴収の確保という国家財政上の目的のためであって、移出課税による酒税の賦課徴収の仕組みを十分に機能させるためには、その採用が必須であったとみとめられたからであるというのが相当である。。
仮に、原告の主張のように、移出税方式の導入による実質的増税に対する酒類製造業者の反対の事実があったとしても、それらは立法当時の背景の事情のひとつに過ぎないというべきである。
(二) 原告は、立法当時である昭和一三年から、社会情勢が著しく変化し、酒類製造業者の経営基盤が弱体化するような要素は格段に減り、酒税大部分も、経営基盤の堅固な大手酒類製造業者からの納税で占められているので、本件処分当時において酒税保全のため酒販免許制度を維持する必要性は存在しなくなったと主張する。
しかし、証拠(甲九七)及び弁論の全趣旨によれば、近年においても中小規模の清酒製造業者のうちには、小売店と直接の取引があるものが多く、納付した税の回収は必ずしも容易とはいえず、小売店の倒産が直ちに製造業者の経営に悪影響を及ぼす事例もあることが認められる。
そのうえ、移出にかかる酒類についての酒税の納期限が原則として移出日の属する月の末日から二か月以内とされており(酒税法三〇条の四第一項)、酒類製造業者において比較的短期間のうちに酒類の販売代金を酒類販売業者から回収する必要性があること等を考慮すれば、原告主張の右事実を考慮してもなお、直ちに、酒販免許制度の必要性及び合理性が失われるに至ったとまではいうことはできない。
(三) 原告は、酒類が自由価格であって、酒販免許制度では酒税の消費者への円滑な転嫁を確保できない旨主張するが、仮に販売競争の激化によって酒類が酒税を下回る価格で販売される余地があるとすれば、なおのこと、酒販免許制度により酒類販売業者の経営の確実性、安定性を確保し、酒類製造業者による酒税を含む販売代金の回収を確保する必要があるというべきであり、所論は失当である。
(四) 原告は、仮に酒類販売業者の乱立等により、酒類製造業者の経営に影響が及ぶおそれがあるとしても、酒団法等これに対処する法制度が別途存在し、これによって規制を行うことができるから、酒税の確保には支障がない旨主張する。しかし、酒団法は、酒類販売業者が自主的に組織した組合によるいわば自主規制を中心として酒税の確保を図るものであり(同法一条)、酒税の保全の見地から免許制度によって事前に規制を行う酒税法とはその機能及び方法等を異にし、酒団法のみで酒税の保全をすべて賄い得るものではなく、また、酒税法に定める酒類製造免許制度も酒税の保全措置として万全なものとはいえない。したがって、これらの法律が存在するからといって、直ちに酒販免許制度が不要であるということはできない。
(五) 原告は、第二種物品税は元来滞納率が低く、酒税の滞納率も移出課税となった酒税法の改正当時から一貫して〇・一パーセントと低い状態を維持しているから、本件処分当時において、酒販免許制度を維持すべき必要性も合理性もない旨主張する。
証拠(甲二七、二八)及び弁論の全趣旨によれば、酒税の滞納率は、昭和一一年度から昭和一八年度までが一パーセント未満であり、昭和一九年度から昭和二八年度までが二パーセントないし一〇パーセントと高率になっているが、その後下降し、昭和三一年度以降は、昭和三九年度の〇・三パーセントを除き、概ね〇・一パーセント前後という状況にあること、所得税や相続税の滞納率ははるかに高率であるうえ、年ごとの変動も著しいこと、酒税の滞納率は、物品税の滞納率と比較して極めて低いことがそれぞれ認められ、以上によれば、酒税の滞納率は、景気の変動等による影響が少なく、低い率のままで概ね安定して推移しているということができ、原告主張のように、酒販免許制度の採用前後において、酒税の滞納率に大きな変化は認められない。
しかし、酒税の滞納率の推移には、種々の社会的、経済的要因及び酒税の税率の変更等の要因が関係しているというべきところ、むしろ、昭和三〇年度以降、現在に至るまでの酒税の滞納率が概ね〇・一パーセント前後で推移していることに照らすと、右滞納率の低さには、少なくとも移出課税方式若しくは酒販免許制度が総体として寄与していることもまた否定できないというべきで、滞納率に変化が認められないからといって、直ちにこれを維持する必要性及び合理性がないと断定することはできない。
(六) 原告は、たばこ税及び揮発油税が、酒税と同様の間接税でありながら、その販売業に免許制を採用していないから、酒販免許制度の合理性に疑問がある旨主張する。しかし、等しく間接税といっても、それぞれの間接税が課税対象としている商品の内容及び性質等並びにこれらを製造販売する業者の数、規模等には差異があるのであるから、これらに応じて、どのような賦課徴収の仕組みを採用するかは、正に立法府の政策的、技術的裁量に委ねられているところであり、各間接税間の右のような差異を無視し、他の間接税において異なる賦課徴収の仕組みがとられていること自体捉えて、酒税が他の間接税の賦課徴収の仕組みと整合性を欠いているということはできない。
第三酒販免許基準(酒税法一〇条一一号)の合憲性について
一 酒税法一〇条一一号は、酒類販売業の免許の付与に需給均衡の維持を要件とする旨を定めている。これは、一定地域内における酒類に対する需要量が当該地域に存在する販売場の数に関わりなくほぼ一定していると考えられることから、当該地域において酒類販売業者が乱立し、過当競争が生ずれば、経営が不安定となって酒類製造業者による酒類販売代金の回収が困難となり、これによって酒類製造業者の経営の不安定を招き、その結果、酒税の徴収に支障を生ずるおそれがあるので、これを防止するため、需給要件の認定判断を通じ酒類販売業への新規参入を一定限度で制限し、酒類販売業者の経営が安定的に行われることを確保することによって酒税収入の確保を図ろうとしたものである。したがって、需給要件は、既に認定した酒販免許制度の制度趣旨からして合理的なものということができ、また、右要件が、不明確で行政のし意的判断を許すようなものであるとも認め難い。
そうすると、右の規定を採用した立法府の政策的、技術的な判断がその裁量の範囲を逸脱し、著しく不合理であるということはできず、右規定が憲法二二条一項に違反するということはできない。
二 原告は、酒税法一〇条一一号は、既存業者の私的利益を保護するために新規業者の参入を制限するものである旨主張するが、同条の立法目的は、既に認定したとおりであり、仮に、需給要件により結果的に既存の酒類販売業者の既得権が保護されるという側面が否定できないとしても、それは、同条による規制措置の反射的ないし副次的効果にすぎず、右要件が不必要で、かつ、不合理なものであるとはいえないから、原告の右主張は採用できない。
第四本件処分適法性について
一 抗弁3(1)の事実、(需給要件の認定基準と免許申請に対する審査手続き)は、いずれも当事者間に争いがない。
二 本件通達における認定基準の合理性について
本件通達における認定基準は、酒販免許制度が、酒税の保全と致酔性を有する酒類の管理上、社会的に重要な役割を担うものであることなどから、経済社会の変化に即応し、必要な場合には一定の要件のもとに酒類販売業者に免許を付与することができるようにするとともに、制度運営の透明性及び公平性を確保することを旨として定められている(甲一〇六)もので、右通達は、一定地域における酒類消費の実情がその地域に居住する人口と密接な関連性を有すること、各地域の人口は毎年公表され、客観性が担保されていること、したがって人口基準は、税務署長の認定判断の透明性や公平性を確保し易いことなどを勘案し、一定地域の人口を基準にその地域内での酒類販売業者の免許枠を定め、その枠内で免許を付与するという人口基準をとったものと認められる(弁論の全趣旨)。
そして、本件通達に定める基準人口は、昭和六二年度における免許付与の実情についての全国的な実態調査に基づくものであり、それに基づいて地域の類型ごとに現状の酒類売上金額を維持するために必要な人口を推算して設定されたものであり、右調査によれば、人口一人当たりの免許付与比率の平均は、A地域が一五六七人に一場、B地域が一一二六人に一場、C地域が八七八人に一場の割合であること、他方、アルコール分一〇〇パーセントに換算した人口一人当たりの酒類消費量及び人口一人当たりの酒類消費金額は、それぞれ別表2のとおりであり、当時の酒類消費金額は約五兆三〇二六億円と推計されるから、これを右当時の日本の総人口(約一億二一〇六万人)で除すると人口一人当たりの消費金額は四万三八〇一円となること、そして、A、B、C各地域の酒類小売業者の平均売上金額に基づきその額を維持するために必要な人口を推算すると、A地域が一五〇六人、B地域が一〇五〇人、C地域が六一二人となること、これらの数値等を参酌したうえ、本件通達に定める認定基準が定められたものであることがそれぞれ認められる。(弁論の全趣旨)。
以上によれば、一定の小売販売地域ごとの人口を基準にして免許付与の要件を定め、その需給の均衡を判断することとした本件通達における認定基準は、酒販免許制度の適正な運用のための合理的な基準であるということができる。
なお、原告は、静岡市の基準人口が、一五〇〇人であることに合理性がなく、日本における一場あたりの平均人口八七五人が基準人口として適性であり、静岡市の人口を右の八七五人で除すると五七五となるから、静岡市では販売場が二〇〇場不足していると主張する。しかしながら、前記のとおりその内容に争いがない本件通達によれば、右認定基準にいうA地域は、人口の密集するいわゆる都市部であり、B地域は、A地域以外の都市部、C地域は、それ以外の地域であるということができ、右基準は、これら地域ごとに売上金額を維持するために必要な人口を推算し、基準人口に差を設けたものである。また、これらの地域ごとに物価水準、人件費等が異なることは明らかであるから、以上を総合すれば、静岡市を含む人口の密集する都市部の基準人口を一五〇〇人に設定したことには合理性があるというべきで、原告の掲げる基準人口は、独自の試算によるものであって採用できない。
三 本件処分と酒類の需給の均衡について
本件申請地にかかる小売販売地域である静岡市の人口は、後述のとおり三〇万人以上であるから、小売販売地域の格付けは、A地域(基準人口一五〇〇人)であるところ、同市の平成三年三月三一日当時の人口は四七万〇八三八人である(当事者間に争いはない。)から、同市基準人口比率は三一四となる。しかし、同年八月三一日時点における同市の一般酒類小売業免許場数は既に三二八場あった。(当事者間に争いはない。)から、認定基準によると、本件処分当時において、一般酒類小売業の年度内一般免許枠はなかったことが明らかである。そして、本件申請地所在の地区について認定基準にいう年度内特例免許枠を設けるべき特段の事情も認められない。
これに対し、原告が本件免許申請をしたため、被告は、認定基準の基づき、本件申請地において申請にかかる酒販免許を付与した場合、当該販売地域における酒類の需給の均衡を破り、ひいては酒税の確保に支障をきたすおそれがあると判断して本件処分をしたものである。
そうすると、本件処分は、本件通達の認定基準に従ってなされたものと認められ、他に右処分を違法とすべき事情は認められないから、右処分は適法というべきである。
なお、原告は、本件申請地から半径六〇〇メートル以内に酒類販売店はなく、原告の出店は、酒類の需給の均衡を崩さないと主張するが、証拠(乙一六)によれば、本件申請地の半径約六〇〇メートル以内に酒類販売店は三件あることが認められるうえ、仮に原告主張のとおり本件申請地の近隣に酒類販売店がなかったとしても、近年の自動車等による人の移動の実情を考慮すると、販売場間の距離を最重視することは妥当ではなく、原告の主張は失当である。
また、原告は、本件処分について、酒類の安売りを敢行する原告を差別的に取扱うものであると主張するが、既にみたとおり、本件処分は、本件通達に従ってなされたものであり、原告主張の事実を考慮しても、本件においてし意的な処分があったと認めることはできない。
さらに、原告は、本件処分には申請から九か月経過してなされた違法があると主張するが、右処分において、その主張する程度の期間の経過があったからといって直ちに右処分を違法とすることはできず、原告の右主張は失当である。
第五結論
以上のとおり、本件請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中由子 裁判官 田中治 裁判官 松葉佐隆之)
別表1
酒税等の負担率の推移
<省略>
別表2
酒類消費数量等の推移
<省略>